福冨七郎左衛門尉疾風録

石見国浅利村・四ッ地蔵城主福冨氏5代録

君谷合戦

 文明八年(一四七六)三月、佐波秀連が君谷地区へ侵入してきた。

 治堅は御屋形(小笠原長弘)の右手やや後方に控えている忠智を見つけた。

 あの位置は大将の護衛上もっとも重要な場所である。

 甲冑に身をかため馬上で悠然と構えている姿は、いかにも颯爽としていた。十七歳とは思えぬ逞しさである。

「あの、飄然(ひょうぜん)とした姿勢、なんともいえぬ柔和な態度、戦を戦とも思わせぬ姿、豪気だ。りりしい若殿ですの」

 理左衛門が目を細め、しきりに本陣を覗っている。

「御屋形さまから『小笠原家中随一』とまで称賛された若殿の剣術、御屋形さまも信頼しておられるしですな」

「ありがたいことだ、あすこまでに可愛がっていただいて」

「そうですの、御屋形さまの采配、戦の仕様を直に教えていただく、これほどありがたいことはありませぬの」

 理左衛門も嬉しそうであった。

「ふっふっ」

 ふと、治堅の口から洩れた含み笑いが、意外に大きな声となって理左衛門を驚かせた。

「なんです、殿」

「いや、なに・・あれだけ血気者の忠智のことだ、先頭に立って戦いたいであろうの」

「まさに、そうですの、さわぐ血を静めるのに苦慮しておられることでしょう。初陣のときの勇姿を思いだしますな」

 理左衛門の口からも含み笑いが洩れた。